1. 心理援助エコシステムについての覚書

心理援助エコシステムについての覚書

おそらく5年以上前の
心理臨床学会だったと思うのですが、
海外の研究者が登壇されて

「心理援助のエコシステム」

について発表された会がありました。

 

当時は、
面白いことを考える人もいるんだなぁ
程度の感想だったのですが、

ここ最近、
日本でも心理援助職の国家資格ができて

「心理援助者とは何か」

ということを考えるうちに、
当時聞いたあの研究が
参考になるんじゃないか、
と思うようになりました。

 

で、どんな研究だったか調べてみたのですが、

これがなんと見つからない!

日本語で検索しても出てこない!

英語はもっと分からない!

 

ということで、
当時の記憶を思い出して、
5年以上越しの覚書を、
ここに書いておきたいと思います。

5年以上熟成されていますので、
内容の確かさはありませんが、
だいたいのアイディアだけでも
日本語で残しておきます。

*どなたか正式な文献など分かる方いたら、
ツイッターか、
リクエストフォームで、
教えてください…。

 

心理援助エコシステムとは?

この「心理援助エコシステム」という名前自体が
ほんとにこんな名前だったか怪しいのですが。

要は、

この社会の中で、
どんな性質の人が、
心理的な援助機能を担っていて、
それはどう機能しているか、

という話です。

 

ここでいう
「心理援助」というのは、

公認心理師のような専門家が行う
「心理療法」のことも指していますし、

素人のおばちゃんがする
「人生相談」のことも指しています。

 

つまり、プロ・アマチュア関係なく、
社会全体で考えると、
社会の中のどんな人が、
心理的な相談役になっているのか、
という話です。

心理援助エコシステムの図

まずは図をごらんあれ。

各要素の名前は、
もっとアカデミックな名前が
ついていた気がするのですが、

うろ覚な上、分かりづらいので、
思い切って「ふつうの言葉」にしました。

 

図の見方は、

上に行けば行くほど、
専門性が強まる一方で、
コストは高く、
援助者と被援助者*の数は少なくなる
(=受け皿が狭くなる)

*被援助者=相談する人のこと

下に行けば行くほど、
専門性が弱まる一方で、
援助者と被援助者の数は多くなる
(=受け皿が広くなる)

というもの。

 

誤解せずに頂きたいのは、

上に行くほど
「偉い」とか「強い」とかいう
身分階級のような図ではなく

心理援助に関する
「専門性の高低(縦軸)」と、
「受け皿の広さ(横軸)」との
関係を示す図ということです。

 

相談したい人の行動予測

この図は、
「相談をしたい人」
は通常どのように相談をしていくか

という行動を予測するにも役に立ちます。

実際は個別の事情によって違いますが、
単純に言うと、
以下の順番で相談は展開していく
(していきやすい)
と予測されます。

 

例)子どものことで困る

  1. 夫やママ友などに相談
    (同じ立場の人)
  2. 親や先輩ママに相談
    (仕事じゃない相談役)
  3. 保育士に相談
    (本業じゃないプロ)
  4. 心理カウンセラーに相談
    (本業のプロ)
  5. その分野の研究者
    (研究者)

 

ここから先は
この順番にそって
それぞれの層の特徴を見ていきましょう。

①同じ立場の人

「同じ立場の人」というのは、

育児であれば、
お母さんお父さん同士

学校であれば、
クラスや部活の友達同士

職場であれば、
同じ地位で働く同僚同士

この「同じ立場の人」層は、
いわゆる「一般の人」で、
社会を構成する最も多い成員です。

 

この層への相談は、
お互いが同じことで悩んだり
迷ったりしていますので

相談をしたところで、
「具体的な打開策」が得れる
ということは少ないかもしれません。

けれども、
同じ気持ちでいて、
いっしょに頑張っている
ということが再確認できることで

それが「困難を乗り越える力」
になったりします。

心理学では、
ここらへんの分野は、
「ピア・カウンセリング」
などと言われています。

最も相談の間口が広く、
最も専門性が低い
(専門性が求められない)
層です。

 

②仕事じゃない相談役

「仕事じゃない相談役」の層は、

相談者が困っていることを
過去に経験したことがある
「親」や「先輩」のこと。

 

相談者が困っていることについて

「私のときは、こうだった」
「こうすると良いと言われている」

などと、
「経験則」や「伝承の知恵」
でサポートをします。

 

プライベートな関係の成員なので
基本的に善意のボランティアで
相談活動が展開されます。

 

「同じ立場の人」よりは

専門性が高い
(経験や伝承によって
知識が構造化されている)
と言えますが、

相談の間口は狭くなります。

 

③本業じゃないプロ

これまでの層は、
プライベートな関係の層でしたが、

ここから先は、
「仕事として関わっている人」
「オフィシャルな関係の層」
への相談となります。

 

「本業じゃないプロ」は、
心理援助を本業にしている訳ではない
のですがその仕事の性質上
「相談を受ける立場にある人」です。

 

具体的には、
・保育士
・教師
・看護師
・美容師
・職場の上司
・保険の営業の人
・弁護士
・ファイナンシャルプランナー
・医師
・バーのマスター
・キャバクラのお姉ちゃん
・占い師
・ショップの店員さん
…などなど、
例を上げればきりがありません。

 

この層の人も
「仕事じゃない相談役」と同様、
基本的には「経験則」と「伝承」
で相談活動にあたるのですが、

仕事でやっている分
相談を受ける頻度が、
「仕事じゃない相談役」の比ではなく
その専門性(情報の構築度)は
「仕事じゃない相談役」
よりも高まります。

(ただし、構築された知識は、
学術的な検証を通したものではないので
ひどく偏る場合もあります。)

 

また、この層は
本業の研鑽の一環として
学術的に検証された心理学
を学ぶことも珍しくありません。

 

この層は、

「怪しい人」から、

「心理職顔負けの
相談技術を持つ人」まで、

いろいろなレベルの人が
混在しています。

 

④本業のプロ

ここから先はいわゆる
「心理士」
「心理専門職」
「心理カウンセラー」
などと呼ばれる層です。

 

大学や大学院などの
アカデミックな環境で
学術的な心理学の基礎を学び、

それに基づいて
心理援助を行うことを
本業としている層です。

 

①〜③までの
「経験則」と「伝承」によって
裏付けられた専門性と

④以降の、
「学術的な研究」によって
裏付けられた専門性とは

「客観的な批判に耐えうるか」
という点で、
その専門性の性質が
異なります。

 

けれどもそれは、
①〜③までの専門性が
「嘘」や「まやかし」である
ということではありません。

現に、
一般的なほとんどの悩みは、
①〜③までの
「経験則」と「伝承」に
裏付けられた相談によって
解決します。

 

逆にいうと、

心理援助エコシステム的には

「経験則」や「伝承」では
解決しえなかった問題が、

「心理学によるアプローチ」
の対象になる

ということです。

 

⑤研究者

心理援助エコシステムの最後の層は、
「研究者」の層です。

 

この層は、

既存の心理学的な知見では
解決しえなかった問題

に対して、

心理学的研究法を用いて
より進歩した援助法を
開発し提供する層

と、概念的には言えます。

 

ただし、
概念的にはそう言えますが、

心理専門職は、
「科学者ー実践者モデル」
というモデルで、
援助活動と研究活動を
同時に行っていますので、

実際の心理専門家は、
「本業のプロ(実践者)」と
「研究者(科学者)」の間を
行ったり来たりしています。

心理専門家は、
既存のアプローチを提供しながら
より良いアプローチの
改良や開発もしています。


執筆:公認心理師(臨床心理士) 髙橋雄太

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