1. アドラー心理学の全体像:生きることの科学

アドラー心理学の全体像:生きることの科学

こんにちは。臨床心理士の高橋です。

この記事は、アルフレッド・アドラー著(桜田直美翻訳)の『生きるために大切なこと』の第1章「生きることの科学」を、私なりにまとめたものです。

この章は、アドラー心理学の全体像を紹介した内容になっており、わずか17ページの中に「目的論」「全体論」「ライフスタイル」「共同体感覚」などのアドラー心理学の中心となる概念が、具体例を通しながらわかりやすく記述されています。

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目的論

この章の大きなテーマは『目的論』です。

目的論とは、人間のあらゆる行動や感情には『人生上の目的』があるという考え方。

例えば、犯罪には、その犯罪を行う人の人生上の目的があり、その犯罪を行なっているし、

例えば、精神疾患には、その精神疾患をもつことの人生上の目的があり、その精神疾患を発症している、

…という考え方です。

人間の行動や考えは、受動的・自動的に生じる「条件反射」「本能の仕業」などと捉えるのではなくて、(それが自分自身に自覚されているかどうかは別として)人間的な「目的」をもって発動しているものだと考えます。

この「目的論」はあらゆる行動や考えを個人へと結びつけることから、アドラー心理学が「厳しい心理学」「猛毒」などと呼ばれる理由になっています。

全体から人を理解する

人間を理解しようとする時、例えば「人間の行動」だけを切り取って理解しようとするのではなく、その「行動を選択したその人の人生」として人間を理解しようとする。

「個人の人生上の目的」という全体を想定して、現れている行動や感情を、その全体の一部として捉えていく。

アドラー本人はアドラー心理学のことを「個人心理学(individual psychology)」と名付けていますが、この「個人」という言葉には、そのような意味があるようです。

アドラーが自分の心理学について個人心理学と呼んだように、アドラー心理学では、個人をそれ以上分割できない存在であると考えることから、人間の生を、個人という全体が個人の必要な機能等を使って目的に向かって行動している、というふうに考えている。(wikipediaより引用)

またこのように「個人をそれ以上分割できない存在」として考え、個人に生じるすべての行動や考えはまとまった一つの現象であると考える考え方を、アドラー心理学では『全体論』と呼びます。

 

目的は4〜5歳に形成される

アドラー心理学では、「目的」は4〜5歳で形成される、としています。

4〜5歳に形成された「目的」は、その人の「人格の原型」となり、「人生の方向性」がそれによって決まる。

それ以降は、その「人生の方向性」に沿って、あらゆる出来事を解釈するようになる。

人間は4〜5歳のうちに、あらゆるものを見るための「メガネ」を手に入れるけれども、その「メガネ」は決して真実が見える無色透明のメガネではなくて、その人なりの「人生上の目的」に合わせた色が付いている「色メガネ」なのです。

この色眼鏡(その人なりの「ものの捉え方」)のことを、アドラー心理学では『ライフスタイル』と呼びます。

ちなみに、ここで私なりの注釈を加えると、そもそも「ものの見え方に『絶対的な真実』というものなどは存在しない」と考えます

「真実」というものは、「それが真実です」と認定する絶対的な基準があって成り立つものであり、「ものの見え方」には、そのような絶対的な基準はありえないわけです。

ある大地震が、Aさんにとっては「絶望の始まり」として「見える」かもしれませんし、Bさんにとっては「大きな転機」として「見える」かもしれません。

この場合、アドラー風に言えばAさんはAさんの色眼鏡によって「絶望の始まり」として見ているし、BさんはBさんの色眼鏡によって「大きな転機」としてみているということになりますが、Aさんの人生にとっては紛れもなく「絶望の始まり」であるし、Bさんの人生にとっては紛れもなく「大きな転機」であり、これはそれぞれどちらも、それぞれの人にとっての真実であり、逆の人にとっては真実ではありません。

それは絶対的にどちらが真実であると決めれるものではないのです。

目的は修正できる

4〜5歳のうちに形成された「人生上の目的」は、一生続くのかというとそうではなく、修正が可能であるとアドラーは言います。

私たちは間違える。しかしここで大切なのは、間違いは修正できるということだ。(『生きるために大切なこと』より引用)

現時点で発生している問題を修正するのではなく、人格形成期(つまり4〜5歳)まで遡り、その時点で発生した問題を発見し修正する、とのこと。

表面的に発生している問題ではなくて、より本質的なその人個人の「人生上の目的」を見据えた修正が必要であり、それを見据えれば修正は可能である、ということなのでしょう。

アドラー心理学は「未来志向」と言われますが、ある未来(目的)に向いているベクトルは、過去(4〜5歳)から向かっているものであり、過去を無視するということではありません。

むしろ「早期回想」といって、子どもの頃の記憶をたどり、そこからライフスタイルを分析する…といったことを行うこともあります。

目的の良し悪しは共同体感覚によって決まる

個人心理学(アドラー心理学)を学ぶには、何よりもまず「共同体感覚」という概念を理解する必要がある。(『生きるために大切なこと』より引用)

「共同体感覚」はアドラー心理学の中心的な概念の一つです。

「共同体感覚」とは一言で言うと、他人と自分とは一つの社会を共有している仲間であるという感覚であり、人間を社会的な存在とする感覚です。

共同体感覚が欠けている人間は、犯罪行為に走ったり、自分にとっても他人にとっても無益なことに人生の時間を浪費したりする、とアドラーは言っています。

つまり、その人の「人生上の目的」に共同体感覚が備わっていれば有益な目的となるし、共同体感覚が欠けていれば無益または有害な目的となる、ということです。

ちなみにアドラーが言うには、共同体感覚の欠けた無益な目的を持ちやすい人は「①生まれつき病気を持っている子ども」「②過度に甘やかされた子ども」「③愛されていない子ども」の3つのケースにみられると書いていますが、もちろんこれはケースバイケースであると言えますし、他方では「持って生まれたものよりも、持って生まれたものをどのように扱うかが重要だ」とも書いています。

これまで見てきたように、個人心理学の理論で考えれば、いわゆる「もって生まれたもの」はそれほど大きな意味を持たない。大切なのは、その持って生まれたものを、子供時代にどのように扱うかということだ。(『生きるために大切なこと』より引用)

まとめ

①人間の活動は、その人個人の「目的」にそって発生している
→【目的論】【全体論】

②目的は人生の初期(幼少期)に作り上げられる
→【人格の原型】【ライフスタイル】

③「目的」に「共同体感覚」が組み込まれているかどうかが問題である
→【共同体感覚】【コモンセンス】

④「目的」は後から修正できる

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執筆:公認心理師(臨床心理士) 髙橋雄太

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