性別違和とは?性同一性障害との違いは?

こんにちは。公認心理師の髙橋です。

このコラムでは、「性別違和」の考え方と、「性同一性障害」との共通点や違い、どのような経緯で「性同一性障害」から「性別違和」へと診断基準が切り替わったのかなどについてお伝えいたします。

より基本的な事柄についてはこちらの記事をご覧ください。

性別への違和感。性別違和・性同一性障害について。

性同一性障害とは?

性同一性障害とは簡単に言うと、
「生物学的な性別」に対して「体験している性別」が「反対の性」である状態のことを言います。

例えば、

生物学的には「男性」だけど、自分自身は「女性」だと感じている

などの状態です。

「性同一性障害」は、アメリカ精神医学会が作成する診断基準DSM-IV-TRまで採用されていた診断名であり、2013年に改定されたDSM-5からは「性別違和」に変更がされています。

性別違和とは?

「性別違和」とは簡単に言うと、
「決められた性別」と「体験している性別」が異なる状態とされています。

例えば、

戸籍上は「男性」。
けれども、自分自身は男性ということに違和感を感じている

などの状態です。

「性同一性障害と何が違うの?」
と思うかもしれませんが、
例えば次のような場合はどうでしょうか。

戸籍上は「男性」だけれども、男性ということに違和感を感じている。
けれども女性かと言われれば、それも違う。

この場合は
性同一性障害と言えるかどうか
上記の定義で考えると難しいところですが
確かに性別には違和感を感じています。

性別違和は、性同一性障害を含むより幅広い概念として新しく作られたものです。

なぜ新しい基準へ変わったか

「性同一性障害」から「性別違和」へと言葉が変わった理由としては、以下のようなことが挙げられています。

性は男か女かの2択ではない

一般的な感覚で言うと性別は男と女2つに分けられるように考えられていますが、実は様々な報告から「男性でなければ女性」「女性でなければ男性」と簡単に割り切れるものではないことが明らかになっています。

心の中の感覚として自分自身を男性とも女性とも言えない場合もあれば、心だけでなく身体も生物学的に男性とも女性とも言えない状態で産まれることが一定の割合で起こると言われています。

どちらの性にも属さない自分をXジェンダーと呼ぶ人もいます。

性とは本来、男か女かという2択では割り切れないものであって、それをどちらかに割り切って考えること自体が無理のあるのではないかと、最近では考えられています。

そのような状況から、「反対の性を望む」という定義から、何を望むかは別として「現在の性に違和感を感じている」というより幅の広い定義が採用されるようになったのです。

性の不一致は「障害」か?

またその他にも、性別に違和感を感じている状態を「障害」と呼ぶことが適切なのかという視点での理由もあります。

障害という言葉は、いろいろな意味が含まれた日本語ですが、「性同一性障害」に使われている「障害(disorder)」という言葉は、「心身の不調、異常、病気」という意味を持つ言葉です。

しかしながら、先ほども書いたとおり、そもそも性別には多様な形があることが自然であって、一致している状態が正常で、一致していない状態が異常だ、と言い切れるものではありません。

「障害」という言葉を入れずに表現をした方が良いのではないかという理由もあり、「性同一性障害」から「性別違和」へと表記が変更されています。

アイデンティティの不調か?

さらには、
性同一性障害というネーミングは、
反対の性を望む場合でも、
適切でなはいのではないか?
という考えもあります。

性同一性障害(Gender Identitiy Disorders)
とは、直訳すると
性アイデンティティの不調
という意味ですが、
反対の性を望む人にとっては、
感じている性こそが真実であって、
不調は身体の性の方と考える人も少なくありません。

感じている性アイデンティティの方を
問題にする名前ではなくて、
「現在の性別に対して違和感を感じている」
という現象そのものを表した
「性別違和」という名前の方が
より本人の気持ちに合っている
と考える人も少なくないのです。

性別違和は性同一性障害を拡張する概念

以上のように、性には色々な形や考え方があり「性同一性障害」という呼び方だけではカバーできないことがわかってきました。

そのため、アメリカ精神医学会の診断基準が改訂された時に、「性同一性障害」という名前から「性別違和」という名前に変更されたのです。

性同一性障害よりもより幅広い範囲で、支援やケアが届けられるように考えられた概念が「性別違和」です

本人の定義を尊重すること

ただし、言葉の定義という意味では上記のように説明できるのですが、本人以外の人が「あなたは性同一性障害とは言えない」とか「性別違和とは言えない」などと一方的に否定することは、私は慎むべきだと考えています。

「性同一性障害」や「性別違和」の言葉の定義は、診断基準上の便宜的な定義にすぎません。

決められた定義に合うかということだけではなく、その言葉を使う本人の定義についても尊重されるべきだと私は考えています。

性別違和の治療とサポート

性別違和の治療とサポートについては、こちらのコラムに書いてありますので、よろしければご覧ください。

性別への違和感。性別違和・性同一性障害について。

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